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「ごみから見えたストーリー」
清掃員芸人が描く持続可能な未来とは?
~マシンガンズ・滝沢秀一さんインタビュー(前編)~ その他

2025.10.21

紙は誤解を受けやすい素材です。「木を伐るから環境によくない」と思われがちですが、実際には植林木や製材残材から作られ、古紙利用率も高く「リサイクルの優等生」とも言われています。日本製紙連合会では、そんな紙について正しく知識を広め、ポジティブなイメージを持ってもらおうと、情報発信に取り組んでいます。
今回はその一環として、お笑いコンビ・マシンガンズで活躍しながら、ごみ清掃員としても働く滝沢秀一さんへインタビューを行いました。前後編の前半では、日々のごみ収集についてのエピソード、情報発信の可能性などについて伺っています。

芸人を続けながら清掃員として働く理由

―まず、お笑い芸人を目指した理由をお聞かせください。

最初のきっかけは爆笑問題さんです。高校時代にテレビで見た漫才がとにかく面白くて、「こんな人たちになりたい!」と憧れました。学生時代はライブを見に行ったりもしていて、大学卒業と同時にコンビを結成したんです。
何回も舞台に立つうちに、自分たちは「2回は大滑りするけど、1回は大ウケするタイプ」だと気づきました。その大ウケする1回を探ってきたからこそ、今も芸人を続けていられるんだと思います。

―そんな滝沢さんは、36歳で清掃員のお仕事を始められました。きっかけは何だったのでしょう?

長男が生まれることになって、芸人の収入だけでは厳しいなと思ったんです。ただ、もう36歳だったから、年齢制限でアルバイトが見つからないんですよ。年齢不問の仕事に応募しても全部落とされて、一時は「お笑いも辞めようかな」とまで考えました。
そのときに元芸人仲間の知人に紹介してもらったのが、たまたま清掃員の仕事だったんです。最初はお金のためというか、仕事ならなんでもよかった感じですね。
最初のうちは慣れないハードワークで、毛細血管が切れて目が真っ赤になったこともありました。その状態でライブに出たんですけど、僕はキレ芸なんですよね。真っ赤な目でキレてるわけですから、お客さんからすると笑えませんよね。

―体力的にも環境的にも大変そうですね。10数年続けた今は慣れましたか?

いや、やっぱり慣れません。今でも夏はとにかく暑いです。熱中症の気配はわかるようになって、「ここは無理しないでおこう」くらいは言えますけど、なかなか大変です。
驚いたのは、スポーツドリンクで体力は全然回復しないのに、塩を口にすると劇的に回復すること。おにぎりをひとかじりするだけで復活することもあるんです。「やっぱり人間って塩分が必要なんだな」と体で知りました。
あとは寝不足のダメージも思い知りましたね。清掃員は仕事前にアルコールチェックがあるので、お酒もやめました。働いてはじめて気づいたことが、本当にたくさんありました。

ごみに隠されたストーリーを発見

―仕事からだけでなく、ごみから気づいたことも多いそうですね。

最初のうちはどれも「ただのごみ」に見えました。でも、よく見るとそれぞれにストーリーがあったんです。
たとえば団地に回収に行くことがあります。もうおじいちゃん・おばあちゃんしか住んでない団地も多く、それまではがせていたペットボトルのラベルが、ある日からそのまま出されたりしています。そういうのを見ると「もしかしたら、家からごみを出せない人もいるんじゃないか」と思ったりします。

雨がやんだ日の午後には、「朝にごみを出したのに、なんで回収しないんだ!」とクレームが来るんですね。ところが現場に行くと、たしかにごみはあるけれど全然濡れていない。「雨がやんでから出したんだな」と気づくんです。
「やらされている仕事」だと思っていたら、なにも気づけなかったかもしれません。でも、「ごみのことを知ろう」「一生懸命仕事しよう」と向き合うようにしたら、いろいろなことが見えてきました。地域に密着しているというか、人と人が接する職業なんだと思います。

―紙の回収で記憶に残るエピソードはありますか?

一回、血だらけの段ボールを回収したことがあります。一緒に回っていた清掃員が急に大声を出して、見たらでかい段ボールが血だらけなんですよ。謎ですし、怖かったですね。「警察に電話した方がいいんじゃないか」という話も出ましたけど、人間の血ならこんな出し方はしないだろうということで、結局持っていきました。
ごみは時代を映すところがあって、紙だと新聞や雑誌が減っていて寂しいですね。今は段ボールが圧倒的に多いです。多く出ている箱を見るだけで、どの会社に勢いがあるかわかるんです。
僕が好きなのはみかんの段ボールです。「若い人は箱買いとかしないだろうし、年配の人が食べたのかな」と思いますね。生活がうかがえるごみが好きなんです。

―清掃員の仕事は、お笑い芸人の活動に反映されていますか?

仕事をふたつ持てたのは大きいと思います。ライブで「面白いことを言わなきゃ」と緊張して、ガクガク震えながら面白いことを言っても、そんなにウケないんです。でも今は、ウケなくても「まあ、別に明日ごみ回収すりゃいいや」と考えられるようになりました。逆に清掃員の仕事でひどいごみの出し方を見ても、ライブの話題にしようと思えます。
きっと「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」みたいなことなんでしょうね。気分的にだいぶ楽になったし、まわりからも明るくなったと言われます。

ごみから獲得した29万人のフォロワー

―清掃員とお笑い芸人の活動に加え、SNSや著書でごみについて情報発信もされています。

資源ごみのペットボトルにシャンプーの空き容器が混ざっていることがあります。以前はただ腹が立っていたんですよ。「ごみ分別くらい、ちゃんとやってくれよ」と思っていました。
ただ、よく見ると分別違反のごみにも違いがあったんです。中にはきれいに容器の内側を洗ったものがありました。これを出した人にリサイクルする気はあるけれど、ごみ出しのルールがわかってないから、結果的に違反しているわけなんです。一方で、レジ袋に缶ビールの空き缶と枝豆の殻を一緒に捨てるような人もいます。これはわざとやっていますよね。分別できていないのは同じでも、大きな違いだと思うんです。
たとえば道路にごみをポイ捨てしている人に「ダメですよ」と注意したら、最悪殴られるかもしれない。でも、マスクをポロッと落とした人くらいなら、ちょっと声をかければ拾ってくれます。それなら、まず後者に言った方がいいんじゃないかなと思うんです。つまり、きれいなシャンプーの空き容器を出してしまう人に、情報をどう届けるかということです。
それならSNSでやってみようとX(旧Twitter)で発信したら、事務所の先輩の有吉弘行さんがすぐにリポストしてくれました。「有吉さんが喜んでくれるなら毎日やろう」と続けているうちに、5000人ぐらいだったフォロワーが29万人ぐらいになったんです。
逆に言うと、ごみや資源のことを知りたがってるけど、誰に聞いていいかわからない人がそれだけいる。だったら僕が「何かあったら聞いてくれ」というアイコンになればいいと思うんです。

―印象的だった情報発信はありますか?

一番ヒットしたのは「ピザの箱は資源じゃなくて可燃ごみ」という話でしょうね。段ボールだからリサイクルできると思う人も多いのですが、油で汚れているから資源になりません。可燃ゴミに出してほしいですし、丸めて捨ててくれるとありがたいですね。これは何回もポストしている話で、発信方法についても考えさせられました。
僕のやっているような周知活動は、同じ力でずっと定期的に言うことがポイントなんです。中には一度言えばみんな理解すると思って次の段階の話をして、「なんでこれが理解できないんだ」と怒る人もいます。これだと正しいことを言っていても、「ちょっと怖いな」「意識高い系でしょ」みたいな感じでもったいないですよね。
でも、繰り返し発信していると、全然反応のなかった情報が5回目で急にバズったりします。ピザの箱の話を10回以上ポストしていても、10回目で「はじめて聞きました!」という人が出てくるんですね。なので、一回一回の反応はそんなに気にせず、必要な情報を伝えるよう意識しています。

反響の大きかったピザの箱に関するつぶやき。現在も定期的に発信を続けている

―他にも特殊加工や汚れで回収できない紙など、禁忌品はたくさんあります。

もうひとつリサイクルについていうと、紙製品のマークは何とかならないかと思います。容器や包装には紙マークの表示が義務になっていますし、よりリサイクルに向いた段ボールにはまた専用のマークがあります。ただ、実態に合わない部分も多くて、リサイクルできないものに紙マークがついていたりもするんです。普通は紙マークがあれば「紙ゴミで出せる」って思っちゃいますよね。それなら、自分たち清掃員だけにわかる印でもつけてくれないかなと思うんです。
あとは企業独自でやる環境活動も、現場では結構困っています。某社の食品パッケージは49%がプラスチックで51%が紙。その割合だと紙マークがつくんですよね。企業としては「プラスチックを減らしている」と言いたいんでしょうけど、雑紙の中によく入っているんですよ。
リサイクルの仕組みに共通認識がないと壊れちゃいますね。金箔の入った紙を手でよけている現場もあったし、黒く装丁された本もシミになって再生に向かないと聞きました。デザイナーの人もたぶん悪気はないと思うんです。だからこそ、教育段階でリサイクルを前提にした知識を教えてほしいですね。

リサイクル促進に表示される紙マークと段ボールマーク。
加工や汚れでリサイクルできない場合もあるため、回収前には自治体のルール確認を

―リサイクルできない紙を使う工夫はありますか?

うちの子はまだ中学生と小学生で、家では唐揚げをよく作ります。漉したりしても油がすぐダメになって、そのまま捨てるのはもったいないですよね。古くなった油はシュレッダーにかけた紙と固めて、キャンプの燃焼材に使ったりしています。禁忌品でも似たようなことができたらいいですね。やっぱり、最後の最後まで使う工夫が大事だと思うんです。

<滝沢 秀一(たきざわ しゅういち)>
1976年、東京都生まれ。98年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」2012年、2014年認定漫才師。「THE SECOND 〜漫才トーナメント〜」準優勝。12年よりお笑い芸人の仕事を続けながらゴミ収集会社に就職。ゴミ収集中の体験や気づきをSNSで発信し話題を呼んでいる。

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