「ごみから見えたストーリー」
清掃員芸人が描く持続可能な未来とは?
~マシンガンズ・滝沢秀一さんインタビュー(後編)~ インタビュー
ごみ清掃員としての顔を持つお笑い芸人、マシンガンズの滝沢秀一さん。インタビュー後編では、ごみの教育や世界進出、今後の計画など、未来へ向けた展望を語ってもらいました。
<滝沢 秀一(たきざわ しゅういち)>
1976年、東京都生まれ。98年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」2012年、2014年認定漫才師。「THE SECOND 〜漫才トーナメント〜」準優勝。12年よりお笑い芸人の仕事を続けながらゴミ収集会社に就職。ゴミ収集中の体験や気づきをSNSで発信し話題を呼んでいる。
教育の場でごみを教えたい
―滝沢さんはメディアでも情報発信をしていて、2020年には環境省のサステナビリティ広報大使に任命されました。そういった活動から情報が集まってくると思いますが、興味を惹かれたものはありますか?
たとえば鹿児島県の大崎町にはごみ焼却炉がないんです。ないのではなくあえて作っていなくて、あらゆるごみを分別し、どうしようもないものは埋め立てる取り組みをしています。これには「分ければごみという言葉がなくなるんだろうな」と感銘を受けたんです。考えてみれば、ごみは人間が勝手に生み出したもので、自然界には存在しないですよね。
ごみが出ることはもう仕方がない。でも、中には光るごみもあるんですね。たとえば生まれたばかりの赤ちゃんのおむつを見ると「人間、生まれたときからごみを出してるんだな」と思うんです。
お年寄りの家から2週間くらいごみが出なくて、「死んだんじゃないか」と思うこともあります。それで3週間目に出たら「あ、生きてた」とホッとするんです。人間が生きていて出るのは仕方がないごみで、これはもう光るごみだと思うんです。
かと思えば、洋服や紙が可燃ごみにまとめて入っているのを見ると、「こんなにたくさん買う必要があったのかな」「このままごみになっていいのかな」と思ったりもします。
なので、これからごみ教育をやっていくべきだと思うんです。僕は中学生の頃にダイオキシンの話を教わったくらいですけど、今は小学校で清掃工場を見に行くそうです。そんな教育をしていけば、5年後、10年後はだいぶ変わるだろうと期待しています。
―教育の効果は大きいですね。
20歳ぐらいの子とスーパーに行ったら、牛乳パックを棚の手前から取ったんですよ。僕は親から「後ろから取りなさい」と教わったからびっくりして、なんでそんなことをしたか聞いたら、「学校で習った」と言うんです。SDGs教育が始まって4~5年が経ってるから、食品ロスを出さないのはもう当たり前なんです。すぐに効果が出なくても10年後に効いてくるだろうと期待しながら、集めた情報をみんなにそのまま発信しています。
もうひとつ気になった静岡県浜松市の取り組みで、普通は可燃ごみになる紙コップとアイスクリームのカップを、資源回収して段ボールにしているんですよ。実は僕たちも、似たようなことを事務所でやろうと思ったんです。太田プロの事務所で出した紙コップを全部取っておいてもらって、マシンガンズティッシュにリサイクルしようと。でも、事務所からは衛生的な問題でやりたくないと断られました。
世界に広がるごみ事情
―紙を含めてごみを巡る状況は変化していますが、最近気になることはありますか?
ごみは時代を反映しています。それなら今は何を反映しているかというと、外国人が増えていることですね。日本のようなリサイクルや分別がない地域の人も、日本に来ています。ごみの分別は習慣の面が大きいので、悪気がなくても分別されてない状況で集積所に出ることが多々あるんです。来てすぐに分別を覚えるのは難しいかもしれません。でも、5年住んでも変わらないような人は、もうちょっと努力してほしいと思います。
ただ、中には包丁を段ボールで巻いて、「broken」と書いてくれる外国の方もいます。意識するだけでだいぶ変わるので、外国人の方も含めて、日本のごみについて考えていきたいなとは思いますね。説明会みたいなことができたら面白い気がして、英語の勉強なんかもしているんです。
外国から日本に来る飛行機でも、安全のしおりを見せた後に、「日本はごみ分別がありますよ」とかいうルールを伝えられたらいいですね。さっきも言ったように、知ったらやってくれる人はやっぱりいるんです。でも、ルールを知らずにシャンプーの空き容器を洗うような人も、これからどんどん増えるとも思うんですね。何も知らないまま日本に来るのと、ちょっとは気をつけてみようと思うのとでは、結果が全然違いますから。
―ごみでは海外との関わりも大きな問題です。
実は世界進出も企んでいて、ごみの世界共通認識的なものを作りたいなと思うんです。「プラスチックはあまり使わなくてもいいですよ」「フードロスは出さない方がいい」とか、環境問題みたいな話ですね。なので、業界同士も協力してほしいですね。たとえば紙と木材とプラスチックは別団体だからじゃなくて、みんなで共通認識を話し合える場を作りたいと思います。
こないだはフィリピンに行ってきました。5~6月にはランドセルが結構捨てられていて、「もったいないな」と思っていたんですね。それで調べたら、セカンドライフという団体があって、寄付で集めたランドセルを発展途上国に持っていくらしいんです。その話を面白いなと思ってXでつぶやいたら、「一緒にやりませんか」と向こうから連絡が来ました。ちょうどうちの子が中1になったので、嫌がるのを説得して持って行ったんです。
ケンケンとういあだ名の男の子にランドセルをあげたんですけど、お互いにちょっとしたやり取りもできました。ごみを減らすことからコミュニケーションが生まれたのは、すごくよかったなと思います。
―ごみや環境問題では、持続可能性がポイントですね。
これもフィリピンの話になりますけど、あの国はごみ山が有名で、スモーキーマウンテンは知っている人も多いと思います。一時期は注射針で感染症になったとか、ガラスを踏んで足を切ったとかいう話がありましたが、フィリピン政府がゴミの廃棄を禁止したんです。そしたら、そこの住民たちが一番怒ってしまった。そこで暮らす人たちが生計を立てられなくなったからです。
僕も経験がありますが、「ごみを減らそう」となると、収集車の台数を減らされるんですよね。でも、ただ数字を減らせばいいということじゃないんです。ごみを減らすことと雇用には密接な関係があって、減らしながらどう働くかという考えも、やっぱり大事だと思うんです。鹿児島の大崎町も減らしたごみを資源として売るシステムを作っていて、それで新たに雇用を生んでるところがポイントなんです。
最近は温暖化の影響でとても暑く、夏なんかは熱中症になりながら回収しているわけです。これをどう解決するか考えたときに、夏の間だけ夜中に回収する部隊が少しでもいると、昼間回収する分が減りますよね。実際、福岡では夜中に回収するシステムがあるんですよ。
そもそも、長い間ダラダラやってるから熱中症になるんですよ。短い時間でパッとやって、ちゃんと休めばなりにくいんです。僕もたまに「熱中症に気をつけましょう」って言われるんですけど、「気をつけてるわ!」って思うんですね。やっぱり言葉だけじゃなくて、具体的に何をするかが大事なんですよ。
企業はSDGsとかいろいろ言って、「こんな素晴らしいことやってます」とホームページに書いているけど、実際にどんな行動をしているか見るべきなんでしょうね。口うるさいようですけれども、僕も企業の動きを見ていきたいと思います。
清掃員芸人の描く未来
―その他にどんな取り組みを予定されていますか?
もう30冊近く本を出しているんですけど、小説を文学賞に応募しようと思っていて、今も書いているところです。前にも『かごめかごめ』というホラー小説を出していて、爆笑問題の太田光さんから「お前、文才あるな!」と褒めてもらいました。
実は英文科の出身で、卒論はエドガー・アラン・ポーで書いたんですよ。大学の先生にも評価された自信作です。
―文章でも作家性の強い活動をされているんですね。
それと最近、東京の新宿区落合に「マシンガンズ記念館」を作りました。さっきの卒論や給与明細なんかも展示しているんですけど、ここでいろいろな取り組みができないかと思っています。
まずやりたいのはごみの回収ですね。これからは集積所を回る個別回収ではなく、拠点にごみを持ち込む拠点回収がポイントになると思うんです。収集車のガソリンも使わない方式ですね。マシンガンズを応援してくれる人が記念館に来るついでに、ごみを持ってきてくれないかなと。
僕は今、100%失敗しないバッグ型のコンポストを使っています。なんで失敗しないかというと、もし虫が湧いたりにおいがついたりしても中身を全部引き受けて、仕上げ発酵をしてくれるシステムだから。記念館でも同じような仕組みで回収できたら、家庭のごみは減るし、こっちも堆肥に使えたりします。あとは油の回収もやってみたいし、いずれはリチウムイオン電池や土の回収もできたらいいですね。エンターテインメントと拠点回収を一緒にできたら面白いかなと。
短期的にはリチウムイオン電池の問題、長期的には世界の共通的な認識だったりと、どこをターゲットにどれくらい時間をかけるかは常々考えています。これを読んで興味が湧いた方は、今後の活動もぜひ見ていてください。

